今週読んだ本です。ちょっとサボり気味でした(>_<)。一昔前までは睡眠は軽視されてきました。はたから見て不動の状態は無駄以外何物でもなく、自身の意識もない時間帯はもったいないと考え、できれば２４時間覚醒して様々なことを成し遂げたいと思われてきました。また、不眠不休で働くことが美徳と考えられたり、日中の眠気は気合が足らない怠惰な証拠と思われてきました。しかし、近年ではその睡眠の重要性が認識され、睡眠とは何か、役割はどうなっているのか、どうすれば効率的に眠れるのかなどの問題が注目を集めています。

これにはある理由があります。現代のハイテク・情報化社会が急速に発展して我々人類の生活パターンが大きく変わりました。情報や物質の面で豊かになった反面、環境や心の面ではおおきなひずみが生まれました。ストレス社会が出現したのです。その結果、世界規模で睡眠障害が増え、はかりしれない損失を招いています。そしてやっとその原因が、我々の睡眠軽視に起因するものだと気付いたのです。それ故私たちは睡眠に対して正しい情報と知識を知る必要に迫られているのです。

もう一つの理由は科学技術の発展が脳科学の分野を大きく広げ、睡眠と脳の関係や生物時計の存在などが次第に解明されはじめ、睡眠が無意味でないことが判明しました。それこそ無意味どころか高度に発達した現代人にとって極めて重要であることが解ったのです。生物学の観点でみれば、睡眠は高度の生理機能に支えられた適応行動であり、生体防御技術の一つです。高次の生命体として人は睡眠無しには生きていけないように設計されているのです。睡眠を適切に取ることが実利を追求するにも精神を高揚させるのにも必須の前提条件なのです。

睡眠の役割は休息ではありません。睡眠は高度に発達した我々の大脳（理論的に考え、感情を制御し、知識や運動能力を記憶させる）を創り、育て、守り、修復し、よりよく機能させるための、しいて言えば活動になるのです。それ故に大脳の性能を支える睡眠の適否が、人生の質を左右するのです。適切な睡眠はより豊かに生きることにつながります。逆に不適切な睡眠はより貧しく生きることにつながります。しかも体内の臓器の中で睡眠不足による最も大きな影響を受けるのが大脳なのです。最高位の活動中枢である大脳の機能的が生体自体の活動不良に結びつくことは明白です。こうして大脳の発達に伴って睡眠は進化し大脳を管理する作業に集中するようになりました。いわゆる「眠る脳」は大脳であって、「眠らせる脳」は脳幹と呼ばれる生命の中枢機構で、ここが眠ってしまうと生命活動が維持できなくなる為、植物状態でも脳幹は生命活動を支えています。

さらに睡眠は心の健康に大きくかかわっています。脳内の神経機構では多数のニューロンがそれぞれの神経線維をつないで神経回路を形成し、電気的なパルスによって相互に密接に交信し合っています。このようなニューロン活動を支える化学信号として、各種の神経伝達物質が知られています。神経伝達物質はニューロン間の接点すなわちシナプスで放出される化学物質です。ニューロンが電気的なパルスを発信すると、これに対応してシナプスでは特定の神経伝達物質が放出され、相手のニューロン活動を促進させたり抑制させたりするのです。これら神経伝達物質の中でウリジンはニューロン活動の回復ないし新生、新規情報の消去、細胞内成分の再構築促進に貢献していると考えられています。また、酸化型グルタチオンはニューロンの過剰な活動によって生じる細胞毒を解毒して、細胞膜の障害や細胞死を防ぐとともに、過度の学習および記憶を抑制することに貢献していると考えらえています。日中に受けた不安、不快など大きなストレスは脳細胞の過剰な興奮を促し、多量のエネルギーを消費しニューロンは過熱状態になります。睡眠をとることで過熱状態のニューロンは休息、修復、消去され、脳機能の回復が促されます。こうして覚醒時のはたらき過ぎで消耗していた脳細胞は、情報処理の作業から解放され嫌な記憶も消し去られ、目が覚めた時、気分の上で爽快感として反映されるのです。嫌なことも一晩寝ればすっきりすることになるのです。

いまから２００年前以上も前の１８世紀末に、ドイツの医学者フーフェラントは睡眠とは私たちが身体的・道徳的に存在するための「いちばん賢い行為のひとつ」であり、睡眠時間が削られたり精神的緊張で占められたりすると生存にとって最も不利になると説いています。心身の健康と長寿のためには睡眠はきわめて大切であることが改めて理解できます。